わたしとマイラバ
2012年2月。
バラナシ行き寝台列車。エアコンはついてない。
3週間の予定で訪れたインドの最初の3日めで腹を壊したわたしは、2週間たったその日も腹を壊したままだった。
体調が悪いと全てが嫌になってくる。
3週間のインド旅行中、一緒に行動していたおそらくゲイの友達に対する態度も刺々しい。
本当は一人旅の予定だったのに、彼はなぜかスケジュールをぴったりと合わせてきたのだ。
当時のインドでは、女子大生がレイプされた後殺されるという事件が話題になっていたので、女子っぽいといえども男性と一緒に行動できるのはとても有り難かったのだが・・・正直もうしゃべりたくない。
インド人のまっすぐな瞳にも疲弊してしまう。
日本のコンビニの、心のこもってない親切が恋しい。
仕方がないので早めに一番上の寝台に上がり、扇風機がぶんぶん回るのを横目にイヤフォンをさした。
わたしのiPhoneの中にはいろんな音楽が入っていた。
聞くのはだいたいperfumeかスピッツだったりしたけど、そのときパッと目についたのがmy little lover、通称マイラバだった。
わたしは導かれるようにマイラバの再生ボタンをタップしていた。
小さい頃、おかあさんがカラオケでよく歌っていた曲が流れた。
誰でも聞いたことのある、マイラバといえばのあの曲だ。
包み込むような、すごく女っぽい声が耳をくすぐる。
とても落ち着く。
1曲聞き終え、いい気分になったわたしは別の曲を選ぶ。
聞き覚えのないイントロ、さっきより少し乾いた感じの声、あぁわたしこの曲好きだ。
それは「白いカイト」という曲だった。
それは疲れきってしまったわたしの心に染み入ってきた。
2週間ろくなものを食べれていないわたしの腹も癒してくれた。
歌詞がよかった。
「世界はわたしだけおいて 回り続ける」なんて、まさに自分のことだと感じた。
「だけど心は探してる かさねあう瞬間を」ごめん、嫌いなわけじゃないんだよ。
誰に伝えるでもなく、だけどみんなに言うように心の中でつぶやいた。
寝袋に包まりながらその曲だけ何度も聞いた。
埃っぽい寝台列車の中で、そこだけがわたしだけの居場所だった。
そして今でも、辛いことがあるとマイラバを聞く。
何かがくじけてしまいそうなときには「DESTINY」を聞き、気分を緩やかにあげたいときには「白いカイト」を聞く。
たまに「Hello, Again〜昔からある場所〜」も聞く。
この3曲だけしか聞かない、から、多分ファンとかじゃない。
だけどなんとも言えない、女性の代名詞みたいなあの声がたまらなく好きなのだ。
バラナシでは、少年がカイトをあげていた。
それは偶然にもまっしろで、わたしはそれをずっと見ていた。