旅のすすめ
20歳の頃、わたしははじめて旅に出た。旅行じゃなくて、旅。
それまで住んでいた関西圏から抜け出して、日本の南端の島に移住した。西表島っていう場所だった。決めた理由はすごくシンプル。「浜辺で読書したい」ただそれだけだった。その時期そんなに本も読んでなかったくせに。
はじめて南国という場所に訪れたわたしには、びっくりすることが多かった。街路樹、家々の形や材質、高速船の速さ。旧石垣空港に降り立った瞬間のことは、今でも肌が覚えてる。飛行機の外に出た瞬間、もわっと立ちこめる生暖かさ。くせ毛のわたしがこの世で一番嫌いだった、湿気の肌触り。2月だったのに。
3月の最初の日が誕生日のわたしは、20歳最後のひと月を西表島で過ごした。
今より酷かった人見知りのせいで、友達はひとりもできなかった。寮と職場の往復。誰にも会わないジャングルに面した道を、毎日30分かけて通った。
それが楽しかったのかどうか、今ではまったく覚えていない。だけど1ヶ月くらい経って、友達ができ始めてからのことはよく覚えているから、きっと楽しくなかったんだと思う。
うる覚えだけど、奈良美智が言っていた「孤独だったから絵を描いていた」。わたしはこの言葉とか、考え方が好き。人間には孤独が必要なんだと思う。孤独が欲しくて、旅をするんだと思う。誰もわたしのことを知らない。わたしも、その街を知らない。
あれから7年経って、もうすぐわたしは28歳になる。あれから「糸のついてない凧」になってしまったわたしは、色々なところを転々としていたけど、思うことがあって少し前から沖縄に住んでいる。転々としすぎたせいで、友達も所属する場所もほとんどなくしてしまったわたしは、旅より「旅行」が好きになった。友達や家族を誘っていくほうが幾倍も楽しい。孤独じゃない。
これもまた、結婚とかすると変わってくるのかもしれないけど、今は今の考えだ。
変わらないことなんて、何もないんだから。
今週のお題「20歳」